プラットホーム

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ホームに立つていた
 
昨日ずつと一緒だつた
表情
眼差し

匂い
感触…
噛みしめて
物想いにふける
 
柱の影に立ち
キャリーケースを横に置いたら
向かいのホームに見るともなしに視線をやる
カップルがベンチに並び
楽しそうに笑い合つている…
 
…メロディが鳴つた
もうじき新幹線が来る
荷物を持ち直して顔を上げた
 
新幹線がホームに滑り込んできた
溢れ出す乗客の波
 
波が引けた後
ゆつくりと乗り込んだ
荷物を収め
指定席に座る
 
その時
一人の男が
階段を駆け上がつてくるのが見えた
肩で息をしている男と
目が合つた
思わず席から立ち上がつて
凝視する
 
その瞬間
新幹線は動き出した
二人の距離…どんどん離れていく
やがて見えなくなつた
 
状況から見て
時間が作れる筈もないことは
わかつていた
男はこの一瞬の為に…
相当な無理をしたのだ
 
生温かいものが頬を伝う
 
やがて入つたトンネルの轟音に
嗚咽がかき消されてゆくのが
彼女にはありがたかつた

 


BUMP OF CHICKEN「Aurora」